ビッグデータって?基礎知識からマーケティングへの活用まで紹介!
現代ビジネスのトレンドの一つ「ビッグデータ」。近年、ビッグデータを活用したマーケティングは、大企業のみならず中小企業へも普及傾向にあります。非常に大きな導入効果を発揮した事例はいくつも挙げられていますが、それは正しく活用することが前提です。
この記事では、マーケティングにビッグデータを活用するための基本的な知識や活用事例、ノウハウなどについて詳しく解説しています。
目次
そもそもビッグデータとは
まずはビッグデータの基礎知識から紹介していきます。
3つのV
ビッグデータはその名から「大量なデータ」と捉えられがちですが、実際はそのような単一的なものでなく、むしろ複合性が特徴とも言えます。ビッグデータを簡潔に説明する際によく用いられるのは、2000年初頭に業界アナリストのダグ・レイニー(Doug Laney)氏によって表現された3つのVによる定義です。
3つのV、その1つ目は周知のとおり「Volume(量)」です。インターネットやコンピューターの発展は世の中のデジタル化を急速に押し進めました。ビジネストランザクションやSNS、M2M通信(マシン間通信)など、幅広いソースから今この一瞬にも、想像もつかないような規模のデータが生成されています。このような巨大なデータ群を扱うことは至難の業であり、以前はそのごく一部しか取り扱うことができませんでしたが、新技術の登場により、もれなく保管、管理、解析といった処理を行うことが可能となりました。
2つめのVは「Velocity(速度)」。ここでの速度とは、データの発生頻度や更新頻度のことを指しています。現在、データ流動の高速化は止むところを知りません。そして、データはほぼリアルタイムで有用されることが求められており、AIなどのパワーのある処理機能の導入がその助けとなっています。
3つめのV、それは「Variety(多様性)」です。従来主流とされていた数値などの構造化データから文書、画像、音声、動画といった非構造化データ、株価ティッカーなどの金融取引データまで、現代のデータはその種類や形式が多様であることが特徴です。
このように、多様で高速に流れる莫大な量のデータのことをビッグデータと呼びます。そして、そこに埋もれている知見の獲得や洞察、新しい仕組みの創出がマーケティング業界の追い風になるとして世界で注目を集めています。
ビッグデータ波及の立役者 Hadoop(ハドゥープ)
「Hadoop(ハドゥープ)」とは、大規模なデータを複数のマシンに分散して蓄積や分析などの処理を進めるオープンソースのミドルウェアです。この分散処理技術は、ペタバイト級(1ペタバイトは1000テラバイト)の非構造化データを超高速かつ低コストで処理することを実現し、ビッグデータを波及する起爆剤となりました。
ビッグデータの活用フロー
ビッグデータの活用はその発生元を把握することから始まります。さまざまなデバイスからネットワークによって集められる「ストリーミングデータ」、アメリカ政府の「data.gov」や欧州連合(EU)の「Open Data Portal」などの「オープンデータソース」、そして「ソーシャルメディアにおけるデータ」の3つが主なソースとして挙げられます。
役立ちそうなデータソースを特定したら、次はデータの利用環境や活用方法について思案しましょう。具体的には、データの保管や管理にどの程度の予算を投じるのか、どの範囲までを分析対象とするのか、効果的な活用方法はどれか、などについてです。
その後は、ビッグデータとビッグデータ・アナリティクスのパフォーマンスの最大化を図る上で、最適であろうテクノロジーの調査・選定を進めます。
ビッグデータをマーケティングに活用するメリット
ビッグデータの概要はご理解いただけたでしょうか。ここからは、さらにビッグデータをマーケティングに活用するメリットを紹介します。
需要を予測できる
多くの企業がマーケティングにビッグデータを取り入れる最大の目的は、精度の高い需要予測を実現するためです。どのような業界においても、「ユーザーが何を求めているのか」を知ることはマーケティングの基本とされています。一般的に、予測の精度と施策の効果は相関関係にあるため、大量かつ多角的に収集されるビッグデータは、マーケティング施策における中核的存在であると言えるでしょう。
データを駆使することは顧客のニーズを深く理解するための主要な手段の一つであり、それを生かした施策を打つことで、顧客の創造・確保・回帰といった成果が期待されます。
時間やコストの削減
ビッグデータ活用により需要を予測できるということは、マーケティングにおいて注力すべきポイントやタイミング、優先度を把握できるということ。これは付随的に、「時間やコストを削減できる」というメリットを生むことになります。
損失の減少は利益の増加であり、スピードは競争を勝ち抜くために欠かせない武器です。ビッグデータを掌握すれば、余剰在庫や不要な宣伝費といったコストの最小化、そしてマンパワーや時間の有効活用によるパフォーマンスの最大化に期待が持てます。
1to1マーケティング
ライフスタイルや価値観のダイバーシティ化が進んでいる現代。マーケティングにおいても多様性が求められていることは言うまでもありません。
ビッグデータの登場が詳細な顧客像の把握を可能にしたことにより、ターゲット一人ひとりに焦点を当て「個客単位」でアクションを起こす「1 to 1 マーケティング」が注目を集めるようになりました。一人ひとりの行動パターンや購入履歴から、最適とされるリコメンドやリターゲティング広告、メールやDMといったアプローチを割り出し、高い訴求力を発揮することが可能となっています。
例えば割引クーポンを発行する場合、同じものを同じタイミングで顧客全員に発行するのでなく、ユーザーそれぞれの属性やニーズに合ったものを適切なタイミングで発行することが可能になりました。
課題やその要因の解明
ビッグデータの活用は、組織やプロジェクトにおける癌の洗い出しにも役立ちます。データと言う名の数値化された軌跡を巨大規模でも扱えるようになったため、従来では見落とされていたような論理や問題を解明することが可能になりました。
また、ビッグデータを強力なアナリティクス機能と連結すれば、さまざまなファクターによって状況が常に変動する条件下においても、リアルタイムで問題を特定し対応することも可能になります。
ビッグデータをマーケティングに活用した事例
具体例を知ることで、導入のイメージが湧きやすくなります。ここでは、ビッグデータを活用した事例を紹介します。
ビッグデータで難事業を成し遂げたスシロー
足が早い商品を扱う飲食業界において、代表的な課題として挙げられているのが「廃棄ロス」です。しかし、損失を削減しようと供給量を下げたものの、今度は需要に対応できず利益を下げてしまった、というケースは珍しくありません。販売機会を失わず、かつ廃棄ロスを最小限に抑える。一般的に両立しがたいとされているこの二つの目標を、国内最大級の回転寿司チェーン「スシロー」は、ビッグデータの駆使によって実現しました。
この大業で立役者となったのは「ICチップ付きスシ皿」です。このICチップ皿は、どのネタが、いつレーンに流され、どれくらい食べられたのかなど、年間で10億件以上のデータを収集します。スシローはこのビッグデータをもとに、仕入れ量、レーンに流すネタの量やタイミングを戦略的にコントロールする仕組みを構築しました。ICチップ皿はネタの鮮度を維持することにも一役買っており、顧客満足の向上にも貢献しています。
このようにコストを下げ、CS(顧客満足度)を上げることにより、スシローはシステム導入後10年間で年間1,000億円以上の売上高を誇る企業へと成長、同時に約75%の廃棄量を削減するという偉業も成し遂げています。
パーソナライゼーションを追求するJAL
航空券は高額商材であるがゆえ、比較検討の末に購入されるケースが大半と言われています。JALのWeb販売部は、そのようなウェブを回遊しているユーザーの心を掴むべく、2010年より、毎月およそ2億PVあるというウェブのアクセスログデータの解析を進めています。
蓄積されているビッグデータの主な内容はユーザーの趣味・嗜好、属性、行動履歴などですが、中でも、JALがビッグデータを扱う最大の利点としてうたっているのが「購買に至らなかった人のデータ」です。購買にいたった人とそうでない人のデータを比較することは、施策を練る上でとても役立ちます。
さらにJALは、物言わぬユーザーの望みを知るには自社内のデータのみでは情報量が不十分であるとし、外部サイトでのユーザー情報の収集にも着手しています。内部データと外部データを組み合わせることで「個客」への理解を深め、リコメンドやアプローチをパーソナライズ化することで売上増加を図っています。例えば、あるユーザーがJALのウェブサイトを閲覧した後、ニューヨークの情報を扱う外部サイトにアクセスした場合、再訪の際にはニューヨークへの旅行情報が優先的に表示されるようになるという仕組みです。
顧客全体に対して一律のリコメンドやアプローチを行うよりも、「個」にフォーカスを当てたマーケティングを実施する方が成果が見込めるということは、誰しもが予測できることでしょう。そして、ビッグデータはこのような「1 to 1 マーケティング」にとって必要不可欠な要素として重宝されています。
配送ルートの大刷新を進めたUPS
アメリカ貨物運送会社UPSはビッグデータを用いて車両運用調査研究プロジェクトを実施、大規模な経費削減に成功しています。このプロジェクトの最大の目標は、ドライバーの配送ルートの最適化。営業車両にセンサーを搭載し、そこから収集したデータやオンラインの地図データをもとにドライバーの集荷・配達スケジュールをリアルタイムで調整する、という取り組みです。
UPSはこのプロジェクトのもと配送ルート体系の大刷新を敢行、結果として1日あたり約1億3,600万キロメートルの配送ルート短縮、そして、燃料約3,200万リットル以上の節約に成功しました。UPSはドライバー1名の1日の運行距離をわずか1マイル(約1.6キロメートル)短縮するだけで3,000万ドル(約3,360億円)※ もの経費削減につながると見込んでいます。
※1ドル=約112円(2020年2月現在)
出店候補地の適正性を見極めるStaples
アメリカ最大のオフィス用品小売チェーンStaplesは出店候補地の選定にビッグデータを有用しています。既存する店舗の過去販売実績や立地の属性といったデータの解析を進め、閉店コスト数百万ドルの削減を実現しています。
また、顧客自身が場所や時間、デバイスを選ばずオンデマンドで商品を発注できるサービスを2016年に開始。このサービスは顧客に円滑なユーザー体験を提供するだけでなく、さらなるデータ収集の一助ともなっています。
ビッグデータをマーケティングに活用する上での注意点
ビッグデータをマーケティングに活用するにはどのようなことに注意すれば良いのでしょうか。いくつかポイントを絞って説明します。
セキュリティ対策の強化
サイバー攻撃などによる個人情報の漏洩やデータ紛失、データの外部販売など…消費者は依然として企業や組織の個人情報の扱いに対して不安を抱いている状況にあります。
適切に活用すれば有益なビッグデータも、管理を誤れば大きな損失を生みかねません。そしてそれは、データの量が膨大であればあるほど増大します。セキュリティに関しては万全の布陣を整えましょう。ユーザーに対して適切なプライバシーポリシーを提示したり、ユーザー自身が情報をコントロールするための機会を設定するなども重要な情報管理手段として挙げられます。
トライ&エラーを許容する
ビッグデータは本来、挑戦と失敗を反復しデータやノウハウを蓄積していくことで成果を生み出すもの。つまり、結果が目に見えるようになるにはある程度の年月が要されるのです。中小企業にとっては、導入から結果が出るまでの人的コストや時間的コストといった負担は決して軽いものではありません。しかし、ビッグデータ導入においては、従来のような検証後に検討するという決定プロセスは意味を成さないため、それなりのコストの投入を覚悟することが求められます。
投資対効果を見極める
ビッグデータを活用する際の最終目的は「利益を上げること」ですが、それを分析するためには人材の確保や設備への投資など、決して低いとは言い難いコストが発生します。そして当然ながら、投じたコストに対して見返りが上回っていないと利益は生まれません。
ツールの導入をゴールとし、漠然と分析を進めるのではなく、「その領域は取り組む価値があるものなのか」ということを慎重に見極め戦略を練る必要があるでしょう。
データに振り回されないために気をつけること
ビッグデータを扱う上で忘れてはならないことがあります。それは、「生データ自体には価値がない」ということです。適切な処理や分析というプロセス、そしてそこから導き出される洞察や戦略、プロダクトなどがビッグデータを価値あるものへとたらしめるのです。ビッグデータを収集することにとらわれず、それを活用することに焦点を当てましょう。
大切なのは「ビッグデータを使って何をするのか」。このような目的の明確化はビッグデータで利益を上げるための基本であり、プロジェクトの成功に欠かせない重要な軸となります。
まとめ
AIなどのハイテクノロジーとの組み合わせにより、今後さらなる可能性の拡大が期待されているビッグデータ。しかし、とにもかくにも、ビッグデータが成果を生むのは、しっかりとしたポリシーのもとで適切に活用されてこそです。
経営層には、ビッグデータ活用において一貫すべきところと柔軟であるべきところを深く理解した上で、費用対効果を高める施策を打つことが求められるでしょう。